1. ネパール現地事業 〜約2万6千本を植樹しました〜
1-1. 生活林づくりプロジェクト -第3フェーズが終了(ナルチャン村・サリジャ村)-
ネパール・ヒマラヤでは、いちじるしい人口増加とともに森林の減少がすすんでいます。それは、ネパール・ヒマラヤで暮らす人々が、生活(堆肥や薪、家畜飼料の採取など)のため森林を伐採しなければならないからです。森林が伐採された後には荒廃地がのこり、地域の環境破壊が深刻な問題になっています。
森林を利用し、それを減少(後退)させたのは住民ですが、一方で、住民は森林に依存した生活をしているため、森林が後退することにより住民の生活はくるしくなります。そして住民は、森林伐採を奥地へとさらにすすめ、生活が一層くるしくなるという「悪循環」が生じてしまっています。そこでヒマラヤ保全協会は、森林を再生させるとともに、住民の生活を改善し、地域を活性化させることを目的に「生活林」づくりプロジェクトを開始しました。
「生活林」とは、単に木材を生産するだけではなく、薪・家畜飼料・食品・薬品・土壌保全機能など、住民が生活していくうえで重要な機能をかねそなえた森林であり、住民の最も重要な生活基盤となる森のことです。森林は本来、木材などの生産の場であるとともに、下草の刈り場や肥料となる落ち葉集めの場であり、また、田畑や飲料水の水源でもありました。公益的機能を失わずに森林資源を開発できる「生活林」をつくることにより、自然環境と住民の生活を調和させ、森林と人間とが持続的に共存していく道を開くことができます。
苗畑を拡充:約2万6千本の苗木を育成・植樹
苗木の育成本数(植樹本数)を増やすために苗畑の拡充をすすめました。苗畑管理人を2名雇用し、苗畑の拡充・管理・運営、苗木の育成、村人に対する植樹の指導などをおこないました。苗畑管理人らを対象にした苗畑運営・植林セミナーも開催しました。セミナーの内容は、苗畑と共有林のマネージメント、苗床の作り方、記録のつけかた、種子の選び方などでした。
昨年度は25,968本の苗木を育成・植樹しました(2010年6月現在)。これにより、1996年からこれまでの苗木育成・植樹本数の合計は約76万本となりました。
樹種は、主に、マツ、ハンノキ、サクラ、ポンカン、インデアンローズウッド、飼料木、ロクタ、イラクサなどでした。ポンカンは増産されれば販売することにより収入向上にむすびつきます。ロクタとイラクサの育成は紙漉・織物事業の発展に寄与します。
紙漉事業と織物事業 -製造販売を開始-
ロクタを加工する紙漉施設ならびにイラクサを加工する織物施設を、それぞれ、サリジャVDC第6地区(サリジャ)とサリジャVDC第7地区(パタルカルカ)において建設しました。これらの所有権は各村が保有します。サリジャ地区には、森林資源としてロクタ(ミツマタの類種)とイラクサが存在します。ロクタは、プロジェクト地内の約50ヘクタールの地域に、イラクサは約24ヘクタールの地域に多数自生しており、資源量は十分あります。
紙漉施設は、作業小屋(建物)を完成させ、必要機材をすべて供与し、ロクタ紙を加工生産、紙漉事業(製造販売)を実際に始めました。織物施設は、織機を設置する織機小屋、縫製小屋、トイレ、水道、敷地の防護壁などを建設し、織物事業(製造販売)を開始しました。住民の中には、ロクタおよびイラクサ加工に関する研修をすでに受け、その技術を習得している者が10数人程度いたので、その人達がほかの住民を指導することにより、加工生産体制を確立することができました。
本事業地では現金収入がほとんどないため住民は非常に貧しい生活をしていますが、住民の収入向上がある程度できるようになったので地域社会の発展にとって大きな刺激になり、森林資源を有効に活用しながら地域住民の収入を向上させ、同時に、森林保全事業をすすめられる道を切りひらくことができました。加工品は、紙や生地の半製品として、パルバット郡クスマや、ネパールの中核都市であるポカラ、カトマンドゥなどの製品加工工場に卸すことができました。森林資源を活かした地場産業としてさらに成長できるように体制をつくりました。
2009年の収支は次のとおりでした。
- 織物販売 売上げ:806,400ルピー、経費(サラリーをふくむ):693,000ルピー、純益:113,400ルピー。
- 紙販売 売上げ:129,216ルピー、経費(サラリーをふくむ):40,645ルピー、純益:88,571ルピー。
- 工場ではたらいた女性たちに支払われたサラリーは日給制で1日あたり150ルピーでした。
トレール(trail:山の道)を建設
平成19年度に建設した、集落と森林地域とをむすぶ、森林資源運搬用のトレール(通路)を約10km延長し、堆肥・薪・家畜飼料・果樹・材木などの運搬、家畜の移動にかかわる住民の労働を軽減しました。家畜を森につれて行き餌をあたえることも容易になりました。特に、子供や女性が運搬労働に従事することが多かったので、子供や女性にとってこの効果は計り知れないものとなりました。
運搬が容易になったので、集落近辺の木を切らずに比較的遠くの森から広く薄く伐採することが可能になり、森林保全にも大きく寄与することになりました。また、物資の運搬が容易になることは、住民の所得向上を目的とした地場産業発展のためにも非常に有益でした。通路がよくなったので1回につき40kg程度は運べるようになりました。
1-2. あたらしい苗畑を建設(ドバ村・ベガ村)
ダウラギリ地域に位置するドバ村とベガ村にあたらしい苗畑を建設し、苗木の育成をはじめました。苗畑管理人をそれぞれ1名ずつ雇用しました。2010年の雨季の植樹にむけて、苗木は順調にそだっています。ドバ-ベガ村には、「IHC会員支援の森」をつくります。
1-3. エコ・プロジェクト -ゴミ処理・観光ルート美化-
ネパールでは、ライフスタイルの変化、ツーリストの流入などにより、様々なゴミが多量に廃棄されるようになってきました。そこで、エコツーリズムをキーワードに、村にゴミ箱を設置し、ゴミ集積場を建設するプロジェクトをおこないました。昨年度は、キバン-ナルチャン地域において実施しました。住民を対象にしたワークショップも開催し、環境教育もすすめました。
1-4. その他の事業
教育支援(奨学金支給):ネパール山村僻地の子供たちを育てるために、めぐまれない環境にありながらもよく勉強する小中高生65人に奨学金を支給しました。保健衛生教育:43人の生徒に、HIV/AIDS教育をおこないました。
2. 国内事業
2-1. 国際交流・理解促進事業
(1)第17回 山岳エコロジースクール:サリジャ村を訪問し、植林・織物・紙漉の各事業を見学・体験しながら、ネパールのカーストについて理解をふかめました。
(2)第18回 山岳エコロジースクール:景勝地プンヒルをへてナルチャン村に行きホームステイ、山岳のエコロジーについてまなび、植林活動を体験しました。
2-2. 広報・地球市民学習事業
(1)広報活動
- ・会報「シャングリラ」を4回発行し、事業の進捗状況を報告しました。
- ・ホームページとブログをたえず更新し、広報を拡充させました。
- ・メールマガジンを発行しました。
- ・mixiコミュニティを充実させました。
- ・大学などに講師を派遣しました。
(2)ネパールサロン&エコハイキング
- ・第29回 ネパールサロン「ヒマラヤ写真教室 失った森の今」
- ・第 5回 エコハイキング「山小屋泊、丹沢・鍋割山 ブナ林満喫ハイク」
- ・第 6回 エコハイキング「早春の三浦半島&湘南 〜潮風ウォーク〜」
(3)ネパール家庭料理教室
- ・第 9回:マトン・タルカリ、ムラコ・アツァール
- ・第10回:アルタマ風野菜カレー
(4)地球市民講座
- ・「ヒマラヤン・ヒーリング ~ヒマラヤの自然と調和した癒しの世界~」
- ・「ヒマラヤの民族多様性と民族問題」
(5)グローバルフェスタ2009に出展
- ・展示・物販:ヒマラヤ保全協会の活動紹介、山岳エコロジースクールの広報、他
2-3. ネットワーク・研究・提言事業
- (1)ネパールNGOネットワーク(4N)に団体会員・事務局として参画しました。
- (2)国際協力NGOセンター(JANIC)に団体会員として参画しました。
- (3)流動的なネパール情勢について分析・研究し、発表しました。
- (4)組織評価としてIHCJの組織評価を手始めに行いました。
■ 2009年度会計報告
◆ 2009年度収支報告書&貸借対照表[PDF]