ネパール現況 -長年の紛争と混乱の深い傷をいやし始めた-(2007年)

ネパールは、沖縄本島とほぼ同緯度の亜熱帯に位置し、国土は、北海道の2倍ほどの面積をもつ。8848メートルのエベレストを頂点にしたヒマラヤ山脈から南部低地のジャングルまで、標高差は世界でもっとも大きい。この国土に2600万人の人々が暮らしており、国民の8割がヒンズー教徒でカースト制度による身分区別が今でも存在する。

2001年6月、当時のビレンドラ国王が他の8人の王族とともに殺害されるという大事件がおこった(いわゆる王宮事件)。その直後に、実弟のギャネンドラ現国王が即位したが、政情不安におちいり、ネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)の武装闘争による治安悪化、国王の直接統治、反国王運動の激化という動乱がつづいた。10年間にもわたる「人民戦争」では、1万3000人以上の人々が死亡し、経済的にも危機的状況が続いている。

2006年11月、武装闘争を続けてきたマオイストを含む8政党が和平に正式合意した。暫定政府による国家再生への第一歩が、王制存廃を焦点とした新憲法制定のための制憲議会選挙である。現ネパール王朝のシャハ王朝は1769年にはじまる王朝であるが、その歴史に幕を閉じる可能性もでてきた。

ネパール中央選挙管理委員会のニール・K・ウプレティ理事は、「平和への発展的プロセスであり、国民自らがこの国の未来を作る、本当のデモクラシーを作る、そのための選挙だ」と選挙の意義を強調する。やっと訪れた平和に、一時は半減していた外国人観光客数も徐々に回復してきた。

50を超える民族にはネパール語を使わない人々も多い。ネパールは、1日1ドル以下の所得人口が4分の1を占めるアジアの最貧国であり、小学校を卒業できた児童は、今でも半数にとどまる。唯一、全国に報道可能なラジオネパールのラム・S・カルキ総裁は「選挙番組は、ネパール語のほか17言語でも放送し、民主化の概念を広めたい。識字率が5割前後だけに、我々の役割も責任も大きい」と話す。

しかし、6月の投票予定は11月に延期された。選挙区割りなどをめぐって水面下での政争が続く。

日本の無償援助・技術協力は昨年度までに2200億円にのぼり、公的な支援だけでも5000人を超える日本人がネパールのために協力してきた。ネパールが歴史的な一歩を踏みだそうとしている今、私たち日本人にできることは何か。本当に役に立つことはどんなことなのか。私たちは真剣にかんがえなければならい。

参考資料:読売新聞、2007年06月18日。