《第16回 ネパールサロン》
-第13回 ネパール・ヒマラヤ山岳エコロジースクール
(エコツアー/スタディツアー)報告会-

2006年12月22日~2007年1月8日に、第13回「ネパール・ヒマラヤ山岳エコロジースクール」を開催しました。
 ヒマラヤは、世界でもっとも多様な自然環境をもつ地域であり、自然環境をまなぶための絶好のフィールドになっています。したがって、この地におけるエコツーリズムの可能性はとても大きく、ヒマラヤ保全協会は「ネパール・ヒマラヤ山岳エコロジースクール」を過去13回にわたって開催してきました。
 今回は、ヒマラヤの多様な自然環境を概観したうえで、当協会の「山岳エコロジースクール」開催地の様子を写真を通してくわしく紹介し、ネパール・ヒマラヤのこれからのエコツーリズムの可能性をさぐりました。

【日時】2007年1月27日(土)
【場所】ヒマラヤ保全協会事務所

<解 説>

ネパール・ヒマラヤは、標高約60mの低地から、世界最高峰エベレストの8848mまでの世界最大の高度差をもつ地域であり、この大きな高度差が実に多様な自然環境を生みだしている。
 ヒマラヤの自然環境を理解するためには、まず高度と植物に注目するのがよい。高度と植生には見事な対応関係があり、次のようにまとめられる。

   ■ 5500m以上:氷雪帯(氷河があり、植物はそだたない)
   ■ 3800~5500m:高山帯(樹木は無く、低木、草、高山植物など)
   ■ 3000~3800m:亜高山帯(シャクナゲ、モミ属針葉樹、ズダヤクシュなど)
   ■ 1000~3000m:照葉樹林帯(ツバキなど葉がテカテカ光る樹木に代表される)
   ■ 0~1000m:落葉広葉樹林帯(暑さと乾燥のため、乾季に葉を落とす樹木に代表される)

月平均気温が5度C以上の月平均気温から5を引いた値を積算した値を「暖かさの指数」といい、これは、標高1000mでは180、標高3000mでは70、標高8000mでは0となっている。
 ヒマラヤで有名な高山植物としては、セイタカダイオウ、アオイケシ、ユキノシタ、シオガマギク、サクラソウ、リンドウ、トウヒレン、キケコン、スゲ、イワベンケイ、ワタゲトウヒレンなどがある。セイタガダイオウは特に有名で、その印象的な形態は多くの人々の記憶にのこる(その模型と解説は国立科学博物館で見ることができる)。セイタカダイオウは、その内部は外気よりも約8度あたたかく、成長するのに7~8年かかる。東ヒマラヤでは降水量が多いので大きな高山植物がそだつのだという。
 ヒマラヤ保全協会の「ネパール・ヒマラヤ山岳エコロジースクール」では、ポカラでは落葉広葉樹林帯を、トレッキング中のプンヒルでは亜高山帯を、それ以外の場所では照葉樹林帯を直接観察することができる。また、プンヒルやナルチャンでは高山帯~雪氷帯を比較的間近で見ることができる。したがって、落葉広葉樹林帯~氷雪帯までの多様な自然環境を比較的短期間で見わたすことができるわけで、このような効率のよい自然環境体験(フィールドワーク)はほかの地域では決して得られない。
 「ネパール・ヒマラヤ山岳エコロジースクール」でホームステイする村の環境は照葉樹林帯に属し、多くの人々が日本の自然環境(景色)と似ていることに気がつく。それは植生が似ているからである。実は、照葉樹林帯はヒマラヤ中間山地から中国をへて西日本までつらなる非常に大きな植生帯であり、この地帯では「照葉樹林文化」とよばれる独自の文化が花開いた。
 したがって、「ネパール・ヒマラヤ山岳エコロジースクール」では、まず、ヒマラヤの多様な自然環境を大観でき、次に、照葉樹林文化に接することにより、ヒマラヤを理解するだけでなく日本の自然をとらえなおすことができる。
 このように、ネパール・ヒマラヤは非常にすぐれた「大自然の学校」であり、この地でのエコツーリズムの可能性はとても大きいといえよう。