解 説
ヒマラヤ保全協会は、会員・サポーターむけに活動報告&計画書を毎年発行しています。2011年度の報告&計画書には、ヒマラヤに関する解説として「世界の屋根・ヒマラヤの成り立ち」を掲載しました(注)。ヒマラヤの自然環境について知ることは、この地域の環境問題やヒマラヤ保全協会の活動について理解するために役立ちますので、ここに再掲します。
(注)『特定非営利活動法人ヒマラヤ保全協会 2010年度報告&計画』ヒマラヤ保全協会編集発行、2011年8月5日

世界最大の地形的高まりがモンスーンを生みだしている

エベレスト
タンボチェから世界最高峰エベレストをのぞむ

ヒマラヤ山脈は、東西延長2400km、幅150 – 250kmの弧の形をした山脈です。日本列島とほぼ同じ大きさであり、北海道の宗谷岬から九州の佐多岬までがすっぽり入ってしまうサイズです。

多くの皆さんが、ヒマラヤは、氷と雪に一年中おおわれているとおもいがちですが、それは高地のみであり、実際には、北緯27° – 35°に位置し(日本でいうと屋久島から沖縄の間にあり)、ヒマラヤ山脈の大部分は亜熱帯から温暖帯の気候下に位置しています。

いうまでもなくヒマラヤ山脈は世界最大の地形的高まりであり、それが、対流圏(高さ12kmまで達する)につきだした巨大な障害物となり、ジェット気流や偏西風のような大気の流れに大きな影響をおよぼしています。その結果、ヒマラヤを境にして、乾燥した西南アジアと湿潤な東南アジア(モンスーン・アジア)が出現し、ヒマラヤ南麓は降水が多く多雨地帯となっています。

ガンジス平原、レッサーヒマラヤ、グレートヒマラヤ(タライ、パハール、ヒマール)

ヒマラヤ山脈は、ガンジス平原の北側にそびえています。その南縁には、標高150mから1200mの シワリークヒル(シワリーク丘陵)があります。そのすぐ北側には、 標高1000mから3000m のレッサーヒマラヤがあり、これは、マハバーラト山脈(2000mから3000mの山々)とその背後にひろがるミッドランドから構成されます。そして、レッサーヒマラヤの北側(背後)に高くそびえたっているのがグレートヒマラヤであり、 エベレスト、アンナプルナ、ダウラギリといった 8000m級の山々が峰をつらね、まさに「世界の屋根」を形づくっています。

ネパール人達は伝統的に、ガンジス平原を「タライ」、レッサーヒマラヤを「パハール」、グレートヒマラヤを「ヒマール」とよんでいます。

大陸の衝突によりヒマラヤ山脈が形成された

地球上では、プレートテクトニクスにより大陸の移動がおこっています。大陸をのせたプレートが移動して沈み込みをつづけていると、いつかは大陸と大陸の衝突がおこります。たとえば、オーストラリア大陸は、インド-オーストラリアプレートの一部として、現在、年間7cmの速度で北上しており、5000万年後にはアジア大陸に衝突すると予測されています。

インド亜大陸も同じインド-オーストラリアプレートに属しており、約5000万年前にユーラシア大陸に衝突しました。そのときにできた地形的な高まりがヒマラヤ山脈です。この山脈は衝突型造山帯とよばれます。

かつてのインド亜大陸とユーラシア大陸との間にはテチス海という広大な海がひろがっていました。テチス海の海洋プレートと堆積物は、大陸の衝突により、インド亜大陸の縁辺部にのりあげ、ヒマラヤ山脈の地層を形成しています。ヒマラヤ山脈から海洋性生物の化石が産出し、ヒマラヤがかつては海だったといわれるのはこのためです。

ヒマラヤの環境破壊がすすむ

さて、ヒマラヤ保全協会の事業地は、いずれもレッサーヒマラヤすなわちパハールに位置しています。私たちの事業地が、ヒマラヤ全体の中でどのような環境条件の下にあるのかをよく理解しておくことは重要なことです。

そこは、かつて、3 – 4世代前まではとてもゆたかな自然環境にめぐまれ、そこで暮らす人々は農業をいとなみ、家畜を放牧して自給自足の生活をしていました。彼らは、夏季の半年間、山地の森林や高山草地までをまんべんなく放牧で利用し、そのたくさんの家畜をつかって階段耕地を施肥し、乳製品もつくっていました。

しかし、人口が急激に増加してきたことにより、過放牧をする結果となり、また、薪や飼料の採取のために、彼らの集落にちかいところにあった森林を根こそぎ乱伐するようになってしまいました。そしてもはや、森林の自然再生能力はなくなってしまいました。この地域には一方で植林の文化は元々まったくなかったこともあり、森林はみるみる後退していき、自然環境は壊滅的に破壊され、畑は肥料切れになり、家畜の餌もなくなってきました。

このような状況の中で、私たちヒマラヤ保全協会の環境保全活動がはじまりました。